ガワラジオ

個人的な出来事の整理用。

メタ俺。

メタ、俺。(僕の一人称を鑑みれば、メタ「僕」が適切なのかもしれない。然しこいつは「俺」であり、本体の僕は「僕」である。決定的な主従関係がそこにはある。しかも、メタ「私」だと鷲田清一みたいになるし、あとメタ「俺」は「笑顔で」とか「出直せ」で韻が踏める。)

 

彼は常に僕の頭の右後ろあたりにいる。幼少期から僕を知る友人であり、孤独な時の話相手としては申し分ない。但し一つだけ苦言を呈すならば、極めて、極めて批判的である。

 

僕には好きな球団がない。一度西部を好きになろうとした事があった。彼は言う「単に地元に近いだけで、君は好きになったつもりでいるのではないか?」

 

僕には趣味がない。芸術にはまった日もあった。大学のテスト期間中、無機化学の本に飽きてしまった僕はシュルレアリスムに関する一冊の本を手に取り、ジョルジオ・デ・キリコに陶酔した。(今思えばキリコはシュルレアリスム作家では無い。)そんな時も彼は言う。「君は西洋画家をキリコしか知らない。ゴッホゴーギャンが好きだという印象派loverと一線を画す為に好きだと思い込んでるだけさ。違う?じゃあその時代の作家を片っ端から挙げてみろ。その上でなぜキリコが一番好きなのか語ってごらんなさい。ほら、一言も出てこないじゃないか。たまたま都合の良い解釈が出来そうな作家を引っ張りだしてきて、都合の良い解釈を上乗せし、知識をひけらかしたいだけだろ。だいたいお前ってのは…」

 

 こうなると「何かを好きになる」という「当たり前のこと」がたちまち難しくなる。メタ俺がいない「僕以外その他大勢」のように、当たり前のように何かを好きにならせてくれ。

 

ある日、僕はひとりの女性と飲みに行った。ぼくが当時女の子と飲みに行く場所として必ず使っていた行きつけの居酒屋で彼女は言う。

 

「私、人を好きになれないんですよ。周りの女の子がすぐに好きな人を見つけて、恋愛トークに花を咲かせるのに、私はどこかついて行けないんです。私が好きな人の事を話してても、私の頭の右後ろの人から冷ややかな視線を送られてる気がして、「本当は好きじゃないんだろう」って。」

 

 

メタ俺は語りかける。「俺の存在によって、自分の事を特別な存在だと思ってたんだろう。違うさ君も君が嫌いなその他大勢の凡人と同じだよ。」

 

ある種の絶望。君がいなくなれば僕はもっと幸せなんだ。笑顔で。出直せ。メタ俺。