ガワラジオ

個人的な出来事の整理用。

キュビズム

幸せについて考えるとき、Tはいつも美しさのことしか考えていなかったのだった。 終電の地下鉄は人も疎らである。錦糸町までは20分ほどかかるだろうか。Tは座席の足元に放り出していたナイロン製のバックパックの巾着状のサイドポケットから新書を取り出そう…

レジ袋

選択肢が増える事は必ずしも良いことでは無い。 と、思う。高まるエコブームを受けてレジ袋が有料化されてから久しい。買い物をする際にきちんとマイバッグを準備している人はすごいなと思う。僕はお出かけ前のドタバタが激しいタイプなので、計画していた買…

京都への道中にて

東海道新幹線は名古屋を出発した後、岐阜の山間部に到達した。窓の外には路線と尾根に囲まれた盆地上に古い家がポツポツと見える。僕はこうした家の住人がどのように生活しているのか不思議でたまらなかった。山林と新幹線という自然と文明のコントラストに…

赤坂見附のコーヒーチェーンで

「何故小説なんか読むんだい?」Wは半ば呆れたように尋ねた。 「僕もよく小説を読むわけじゃ無いが、まあ楽しいから読むんじゃないか?」 「楽しいから、ねぇ。でも、テレビも映画も発展してきて、今となってはYouTubeやNetflixみたいな動画サイトで溢れてい…

レイコ

10月後半。今年の秋はかなり短かったように思うほど、突如として寒さが訪れた。コロナ騒ぎが落ち着いたので、もはや義務となった有給を消化すべく地元に帰ることにした。 実家を出て10年になる。家族4人で集まることがこんなにも減ることを、10年前の自分は…

人がいない金曜日の新橋にて

Wは昨晩カラオケに行くのをやめた。 ------ 新型コロナウィルスのパンデミックから3ヶ月、緊急事態宣言も解かれ、ゴーストタウン化していた東京も人がまばらに見られるようになった。 Wは暫くの間彼女以外の女性と会っていないとぼやいていて、彼が恵比寿の…

多動的な趣味の先に成功はあるか

将棋を打つことがもっぱら最近の暇つぶしとなって久しい。約半年くらいはハマっているだろうか。登録されている囲い方や戦法を繰り出すと、エフェクトがコレクションできる面白アプリに登録してからすっかり将棋の魅力に気づき、プロの将棋戦を晩酌しながら…

金曜日の夜。駅前の居酒屋にて。

「何か嫌なことがあったわけでは無い。ただ、楽しいと思えることが、何も無かった。」 嘘か真か、すでにこの世にいない大学の同級生が最後に残した言葉とのこと。 稀に見る暖冬でマフラーはおろかコートも不要なバレンタインの夜である。暫く会っていなかっ…

イシュー無き世界

9月半ば。この時期はこんなに涼しかったであろうか。ここ暫く睡眠前後の数時間はエアコンをつけていたが、今日は寧ろ夜風が心地いい。エアコンのスイッチには手を伸ばさなかった。小学校に扇風機すら導入されていなかった時代の教育を受けているから、空調は…

金曜22時50分。バスタブに39度の湯を溜め、風呂に入る。ここ数年は時間が許せば近所の銭湯に行きサウナを愉しむ生活を送っていたが、持病の偏頭痛の悪化にサウナが少なからず貢献しているらしいことを知り、最近は専ら家風呂派となっている。 ランドリーラッ…

ラベル

全く牙が抜けたようである。 K町と隣のO町の間にある銭湯に入り、1時間ほどサウナと露天風呂を楽んでから、縦に異様に長い暖簾を力強く押し外に出た直後であった。僕は言いようもない脱力感、否、無力感とでも言う感情に襲われたのである。 全くもって無意…

良い美容院の話

「美容院はどちらへ?」 定石としては褒め言葉として受け取るべきこの類の問に対して、僕はたじろいでしまう。生来のサボり症により入念なセットには慣れていない上に、学生時代からの多量の飲酒喫煙によって髪の傷みと頭髪後退の気配が見られる僕にしては、…

2月の下書きを参考に

サラダはドレッシングを味わう為に存在する。サウナは水風呂に入る為の前戯である。人生は、或いは。 僕の中のロマンチズムは、一欠片の理性と全身にこびりつく怠惰によって、今にも崩壊しようとしているのである。 贔屓にしていた古びたカフェは令和の訪れ…

モザイク

4月半ば。次の元号が令和になると政府が発表してから早くも2週間が経った。新しい時代への準備として、室長が20時以降の残業を禁止してからちょうど1ヶ月程である。 20時に仕事を終え、週末に沸き立つ飲屋街で先輩社員と軽く食事をとった後、「友人が待って…

仕事とプライベート

同じ部署内での若手の集まりで、年は1つ下だが年次的には1つ上になる先輩Yが「話のタネに」という事でこんな問いかけをしていた。 「仕事はプライベートの為にあると思うか。否プライベートが仕事の為にあるのか。」 同様の質問を彼の同期の飲みの席でした…

取引先との付き合いが仕事の重要な要素であるこの仕事は、あまりにも人と接し過ぎる。中華圏の正月で仕事もあまりない予定だったので、国内の人気のない旅館で1人を満喫することにした。 旅と言えば、海外でその日に見つけた安宿を転々とするのが基本であっ…

起業の世代

下書きを書いておいて、結局いつまでも書き上がらないのはニワカブロガーの特徴であろう。 3ヶ月以上前の下書きは以下のようなものである。結局何を思って殴り書いてみたのか定かではない。 <下書き> 9月二回目の三連休最終日である。11時過ぎに起き、ゆっく…

ボヘミアン・ラプソディ

いつ以来だろうか。久しぶりに映画館で映画を見た。数年ぶりに、しかも初めて一人で映画館に足を運んでみたが、映画館独特の緊張感と高揚感は親に連れられて見に行った時とも、当時の彼女を連れて行った時とも変わらぬままであった。 先月の28日に遂に26歳に…

女はなぜ突然怒り出すのか?

花言葉に愛を込めて。若しくは背筋がむず痒くなるくらい香ばしい手紙。プレゼントには沢山の選択肢があるものの、本のプレゼントは中々洒落の効いたものだと思う。 ジャケットを着ても汗をかかなくなった10月初旬、取引先とのプライベートの懇親会があった。…

家出のすすめ

9月中旬、東京では受ける風に大陸の冷気を感じる。まだ夏を諦めきれず、忙しい日々を送る同部署の同期4人で沖縄旅行に向かった。 彼らはそれぞれ大学も寮も違うものの、この春箱根旅行をして以降幾度か一緒に休日を過ごしている。 旅行先での議論のテーマは…

予定も無いのにレンタカーだけ借りた日

ー7月22日 午後 予定は無い。 流行りの新書を紹介しあい、本質という言葉を闇雲に並べるだけの、至って面白味の無い読書会に参加した後、主催者からの熱烈なセミナーの誘いーーネットワークビジネスの類だったのだろうかーーを断り、かくして日曜日の午後の…

LGBTの謎

「障害者を差別しない」ことを宣言させられた小学生時代、違和感を覚えた記憶がある。 世間知らずの山育ちの少年にとって、「差別をしない」とは何かを理解することができなかった。 「S君も同じ仲間です。ちゃんと友達になってください。」 健常者のクラス…

ゴール型思考とプロセス型思考

就職活動の時期である。 お昼時会社のロビーには隙がない程に整えられた髪を後ろで一つに纏め、清潔な黒いスーツに身を包んだ不安そうな就活生がOB訪問の為に列をなしている。そんな光景を見て、ふと、周囲のデキる就活生に受け入れてもらえなかった思想が蘇…

京大式 DEEP THINKING

金が無い。 社会人2年目、今年度の給料UPを見込み散財を重ねた結果ボーナス2ヶ月前にして絶望的な金欠に襲われている。 将来の収入をアテに稼ぎをほぼ全てエタノールの摂取につぎ込む僕にはGWの4連休を南国で過ごすなんてそんな贅沢は許されていないのであ…

知識

「え、そんなのも知らないの?www」 って言われる度に、「そんなのも」って言い方にカチンとくる。 その言葉の中には、「"普通の人"なら『当然知っておくべき知識』と『知らなくても良い知識』が明確に分かれていて、君はその『当然知っておくべき知識』に該…

饒舌な小説家の情熱がどう出るか。つまりドーベルマン。

「青春を定義できた時、青春は終わる。」 物書きは饒舌である。彼らが僕と同じ25歳の時、どこに住み、誰を愛したのか、詳細に書き記されているものである。 僕の人生は素晴らしい。誰にも真似ができない。僕の人生は素晴らしい。目に見える景色全てにしっか…

勉強を捨てよ。道に坐りこめ。歌を歌え。

「どうして勉強しなきゃいけないの。」 約半年ぶりに実家に帰った晩、約1年半ぶりに会った従兄弟の女の子が言う。 30年近く教壇に立つ母親に少しばかりの期待をした自分が浅はかだった。彼女はいかにも含蓄をもたせたような口ぶりでこう言う。 「勉強しない…

書かねば

2月21日、平成28年度の修士論文発表会が終わった。院生として2年、学部生から数えれば3年の研究生活の集大成とも言うべきプレゼンテーションを乗り切り、腑抜けきった僕はここ数日何をしたのかあまり覚えていない。おそらく毎日飲んでいたし今日もこれから飲…

朝活

いつからになろうか。たしか2回生の終わりだった。僕はNIKEの薄手のマウンテンパーカーを着ていたから、きっと冬用のアウターはもう必要じゃなくなった春先だったと思う。詳しい理由はもう覚えていないけど、僕と友人Wは朝活を始めた。朝が弱くて一限を寝過…

「その仕事何が面白いんですか?」

内定が出た就活生は就活支援団体で内定者バイトを始める。 多種多様の内定者バイトではありますけど、就活を始めたばかりの後輩からの質問に座談会形式で内定者が答えるというのがよくあるパターンでござる。 どんなに倍率の高い企業も内定は必ず一定数は出…