ガワラジオ

個人的な出来事の整理用。

2月の下書きを参考に

サラダはドレッシングを味わう為に存在する。サウナは水風呂に入る為の前戯である。人生は、或いは。

 

僕の中のロマンチズムは、一欠片の理性と全身にこびりつく怠惰によって、今にも崩壊しようとしているのである。

 

贔屓にしていた古びたカフェは令和の訪れを待つことは無く閉業した。駅前のカフェチェーンの喫煙ルームには、K町らしく異国人の初老の女性たちがテーブル席を囲み日本語では無い何らかの言葉で話している。(突如として、僕のGoogle Android が反応した。4ヶ国語設定にしていたが、どうやら今回はハングルを認識したらしい。)

 

彼女達が僕を不快にさせたのは、檳榔を噛むようなその口音である。檳榔。

 

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2月、台湾は既に春を感じさせる陽気で会った頃、出張で兼ねてから付き合いのある町工場を訪ねた。「今日はいい陽気ですから。」ということで、屋外にある庭でミィーティングを行った際に「試してみろ。」と勧められたのが檳榔であった。

 

噛む程に汗が止まらなくなる。人生初の檳榔を恐る恐る嗜む僕を見て悪戯な顔を覗かせる現地スタッフを尻目に、勝手が分からず悪酔いしたアムステルダムの夜を想起していた。

 

工場の社長の弟は昨年咽頭ガンで亡くなったらしい。20歳になったばかりの息子が後を継ぐまでの間経営を任せようとしていた弟に先立たれ、この工場の目下の課題は後継者問題とのことであった。酒のせいで黄ばんだ大きな目はほぼ瞬きをしない。黒ずんだ唾液とともに檳榔の芯をバケツに吐き出してから、社長は何かを僕に語りかけた。

 

 

現地スタッフは訳してはくれなかった。2月の台湾の夕日が大きくは無い場末の工場を静かに照らすのであった。

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テーブル席の韓国人達は居なくなっている。電話で夫の飲み会の有無を確認していたから、食材の調達に出かけたのだろう。外は日が沈み始めているようである。